眼科の診察室において、最も頻繁に受ける質問の一つが「めばちこは他人にうつりますか?」というものです。結論は、自信を持って「いいえ」と答えられます。しかし、この誤解がこれほどまでに世間に浸透している背景には、眼疾患における「感染」という言葉の定義の混同があるようです。我々専門医が特に注意を払うのは、ウイルス性結膜炎、いわゆる「流行性角結膜炎」です。こちらはアデノウイルスという非常に強力なウイルスが原因で、接触感染によって猛烈な勢いで広がります。一方で、めばちこ(麦粒腫)は、まぶたの脂腺にブドウ球菌が感染して起こる局所的な化膿性炎症です。この「感染」という言葉が、あたかもインフルエンザのように人から人へ伝播することを連想させてしまうのですが、めばちこの場合はあくまで個人の組織内での細菌増殖を指しています。例えるならば、ニキビが隣の人にうつらないのと同じ理屈です。診察の際、私は患者さんに「めばちこは自分の健康のバロメーターですよ」とお伝えすることがあります。なぜなら、同じ細菌がまぶたにいても、元気な時には発症しないからです。睡眠不足や過労、糖尿病などの基礎疾患がある場合、あるいは季節の変わり目で自律神経が乱れている時に、まぶたのバリア機能が低下し、めばちこが姿を現します。したがって、予防において最も重要なのは、他者を避けることではなく、自身の生活習慣を整えることです。また、よく似た症状に「霰粒腫(さんりゅうしゅ)」というものがあります。これは細菌感染ですらなく、まぶたの出口が詰まって脂が溜まる、いわば「脂のしこり」です。もちろん、これもうつることはありません。眼科医として切に願うのは、めばちこが原因で子供がいじめられたり、大人が不当に仕事を休まされたりするような偏見がなくなることです。もし周囲にめばちこで悩んでいる人がいたら、うつることを恐れるのではなく「お疲れ様、ゆっくり休んでね」と声をかけてあげてください。それが医学的にも正しい、最も温かい対応なのです。
眼科医が詳しく解説するめばちこはうつるのかという真実