家の中で死んでいるゴキブリは、なぜか仰向けにひっくり返った姿で発見されることがほとんどです。この特徴的な死に方には、実はゴキブリの体の構造と殺虫剤の作用が深く関わっています。その科学的な理由を知ることで、彼らの生態への理解が少し深まるかもしれません。まず、ゴキブリの体の構造を見てみましょう。彼らの体は、背中側が硬い外骨格で覆われ、比較的重くなっています。一方、お腹側は柔らかく、細かな毛が生えた六本の足がついています。この足のおかげで、普段は重心を低く保ち、安定して素早く動くことができるのです。しかし、ゴキブリが弱ってくると、このバランスが崩れ始めます。市販の殺虫スプレーなどに含まれる「ピレスロイド系」の殺虫成分は、ゴキブリの神経系に作用します。この薬剤が体内に入ると、神経に異常な興奮を引き起こし、全身の筋肉がコントロールを失って痙攣を始めます。人間で言えば、手足が自分の意思とは関係なく激しく震えるような状態です。この痙攣によって、ゴキブリは正常に歩くことができなくなり、体のバランスを崩してひっくり返ってしまいます。元気な状態であれば、すぐに起き上がることができるのですが、神経が麻痺し、筋肉が痙攣している状態では、起き上がるための协调の取れた動きができません。もがけばもがくほど、重心の高い背中側が下になり、起き上がることがますます困難になります。そして、そのまま痙攣を繰り返しながら体力を消耗し、最終的には仰向けの状態で息絶えてしまうのです。つまり、ゴキブリがひっくり返って死んでいるのは、殺虫成分によって神経と筋肉のコントロールを失い、体の構造上、元に戻れなくなった結果なのです。この少し気の毒にも思える最後の姿は、殺虫剤が確かに効果を発揮したことの科学的な証明と言えるでしょう。