医療の歴史において、いちご舌という兆候が生命に関わる重大な疾患の早期発見に繋がった事例は少なくありません。特に大人の場合、子供に比べて症状が非典型的であったり、我慢強さが仇となって発見が遅れたりすることがあるため、事例研究を通じてその危険性を知っておくことは極めて有意義です。ある四十代男性の事例では、最初は単なる喉の違和感と微熱から始まりましたが、発症から二十四時間以内に舌が真っ赤に腫れ上がり、その後急激に血圧が低下してショック状態に陥りました。このケースでは、当初は重い風邪と誤診されかけましたが、診察した医師がいちご舌の鮮明な赤みと、全身の皮膚に現れ始めた薄い紅斑に注目し、トキシックショック症候群、いわゆるTSSの可能性を疑って迅速に高度医療機関へ搬送しました。結果として、この男性は劇症型溶連菌感染症、通称「人食いバクテリア」に近い病態であることが判明し、集中治療室での数週間にわたる治療を経て一命を取り留めました。医師は後に、いちご舌というサインがなければ、単なる敗血症として処理され、診断がさらに遅れていたかもしれないと振り返っています。また別の事例では、五十代女性が数週間にわたっていちご舌の状態が続いており、痛みも熱もないため放置していましたが、精密検査の結果、シェーグレン症候群に伴う重度の口内乾燥と、それに付随する慢性的なカンジダ症が原因であることが判明しました。彼女の場合、いちご舌が自己免疫疾患という大きな病気を見つけるための唯一の目に見える手がかりとなっていたのです。これらの症例から学べる最も重要な教訓は、いちご舌という症状が持つ「診断的価値」の高さです。いちご舌は、感染症においては「毒素が体内を巡っている」というサインであり、自己免疫疾患や代謝異常においては「粘膜のバリア機能が破綻している」という警告です。特に大人の場合は、背景に糖尿病などの基礎疾患があることで症状が重篤化しやすい傾向があるため、いちご舌を単なる口内トラブルとして過小評価してはいけません。事例研究が示す通り、この特徴的な舌の変化は、時に死の淵から患者を救い出すための「黄金のチケット」にもなり得るのです。私たち医療従事者だけでなく、一般の方々も、いちご舌というサインが持つ重みを正しく認識し、それが現れたときには身体の深部で何かが起きているという強い警戒心を持つことが、自身の、そして大切な人の命を守ることに繋がるのです。
劇症型感染症の予兆としてのいちご舌の事例研究