私の恋人、雄太の首に小さなしこりを見つけたのは、二人でソファに座って映画を観ていた、何でもない夜のことでした。彼の首筋に何気なく触れた私の指が、弾力のある、小さな塊に当たったのです。「これ、何?」と尋ねると、彼も「え、本当だ。いつからだろう」と、初めて気づいた様子でした。痛みも何もないそのしこりを、私たちは最初は楽観的に考えていました。しかし、数週間経っても、しこりは消えるどころか、少し大きくなっているように感じられました。私の不安は募り、「一度、病院で診てもらって」と何度も彼に勧めましたが、仕事が忙しい彼は「大丈夫だよ」と、なかなか重い腰を上げませんでした。そんなある日、彼が「最近、夜中にすごい汗をかくんだ」と漏らしました。そして、体重も少し減っているようでした。私は、インターネットで調べた「悪性リンパ腫」の症状と、彼の状態が重なり、いてもたってもいられなくなりました。半ば強引に彼を説得し、総合病院の内科を受診させました。そこから、私たちの生活は一変しました。血液検査、超音波検査、そして生検。長い検査期間を経て、彼に下された診断は、やはり「悪性リンパ腫」でした。頭が真っ白になり、涙が止まりませんでした。しかし、医師は「早期の発見です。今の時代の化学療法は非常に進歩しており、十分に治癒が目指せる病気です」と、力強く語ってくれました。その言葉を信じ、私たちは二人で病気と闘うことを決意しました。抗がん剤治療は、想像以上に過酷なものでした。吐き気や倦怠感、脱毛といった副作用に苦しむ彼を、私はただそばで見守ることしかできませんでした。食事を作ること、身の回りの世話をすること、そして何より、彼の不安な気持ちに寄り添い、話を聞くこと。それが、私にできる全てでした。辛い治療の合間、私たちは将来についてたくさん話をしました。病気が治ったら、旅行に行こう。小さなことでいいから、幸せをたくさん見つけよう。そんな他愛ない会話が、私たち二人を支えていました。半年にわたる治療の末、彼は寛解を告げられました。首のしこりは、私たちの人生に大きな試練を与えましたが、同時に、当たり前の日常の尊さと、お互いの存在の大きさを、改めて教えてくれました。
彼の首のしこり。病気と向き合った二人の記録