三十五年間生きてきて、風邪以外で寝込んだことのなかった私が、人生で最も過酷な病気を経験したのは、去年の夏のことでした。始まりは、日曜の夜に感じた、ゾクッとする悪寒でした。あっという間に体温は39.8度まで上昇。インフルエンザを疑いましたが、それにしては喉の奥に感じる、焼けるような痛みが尋常ではありませんでした。月曜の朝、ふらふらの体で内科を受診すると、医師は私の喉の奥を見るなり、「あー、これは典型的なヘルパンギーナですね。夏風邪の一種ですが、大人がかかると大変ですよ」と告げました。その「大変」という言葉の意味を、私はこれから身をもって知ることになります。処方された解熱鎮痛剤を飲んでも、熱は一時的に下がるだけで、薬が切れるとすぐに高熱に戻ります。そして、何よりも私を苦しめたのが、喉の痛みでした。それは、ただの喉の痛みではありません。まるで、カミソリの刃を何枚も飲み込んだかのような、鋭く、絶え間ない激痛です。唾を飲み込むことすら激痛が走り、思わず声が漏れてしまいます。当然、食事などできるはずもなく、ウィダーインゼリーを一口飲むのにも、覚悟が必要でした。一番つらかったのは、発症から三日目の夜です。高熱と激痛で一睡もできず、暗闇の中で「このままどうにかなってしまうのではないか」という恐怖に襲われました。発症から五日目、ようやく熱が下がり始め、喉の痛みも少しだけ和らいできました。おかゆをスプーン一杯、食べられた時の感動は、今でも忘れられません。完全に普通の食事ができるようになったのは、発症から八日目のことでした。そして、熱や痛みが消えた後も、まるで鉛を背負っているかのような、ひどい倦怠感が一週間ほど続きました。結局、仕事に復帰できたのは、発症から二週間近く経ってからでした。たかが夏風邪と侮ってはいけません。大人のヘルパンギーナは、本当に恐ろしい病気です。あの地獄のような喉の痛みを、二度と経験したくないと心から思います。