日本の医療提供体制において、病院という組織は極めて高い公共性と安全性が求められます。その信頼性を担保し、国民が公平かつ適切に医療を受けられるようにするために実施されるのが、行政による病院監査です。監査と一口に言っても、その根拠法や目的によっていくつかの種類に分かれます。まず代表的なものが、医療法に基づく立ち入り検査です。これは、病院が医療法で定められた構造設備基準や人員配置基準を遵守しているか、あるいは適正な管理運営が行われているかを確認するものです。具体的には、病床数に見合った医師や看護師が実際に勤務しているか、防火体制は整っているか、薬剤や血液製剤の管理が適切かといった点が厳格にチェックされます。これに対し、健康保険法に基づいて行われるのが、いわゆる個別指導や監査と呼ばれるものです。こちらは、医療機関が請求する診療報酬が、保険診療のルールに則って正しく算定されているかを確認することに主眼が置かれます。病院経営において、診療報酬は主要な収益源となりますが、実態のない検査を請求したり、本来は算定できない加算を不当に得たりすることは、公的な医療保険制度の根幹を揺るがす重大な不正行為とみなされます。監査は通常、定期的に行われる指導の過程で、著しい不正や不当な請求が疑われる場合に、より強制力を持った調査として実施されます。監査の結果、重大な違反が認められた場合には、保険指定の取り消しといった非常に厳しい行政処分が下されることもあります。病院側にとって、監査は単なる事務作業の確認ではなく、病院の存続そのものを左右する極めて重い手続きです。しかし、患者の視点に立てば、こうした厳格なチェック機能が働くことで、不透明な医療費の請求が防がれ、質の高い医療サービスが維持されていると言えます。近年の監査では、医療の質だけでなく、ガバナンスや内部統制の在り方も重視されるようになってきました。透明性の高い経営を行い、日々の診療記録を正確に管理することは、監査への対策である以上に、病院としての社会的責任を果たすことに直結します。