月経不順や無月経、あるいはなかなか赤ちゃんを授かれない不妊に悩む女性が婦人科を受診した際、医師から「一度、甲状腺の検査もしてみましょう」と提案されることがあります。なぜ、婦人科系の悩みで、一見関係のなさそうな甲状腺の検査が必要なのでしょうか。それは、女性の体をコントロールするホルモン同士が、目に見えないネットワークで深く結びついているからです。甲状腺ホルモンは、体の新陳代謝を調節するだけでなく、女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンが正常に働くためにも、非常に重要な役割を担っています。甲状腺ホルモンの分泌に異常が生じると、脳下垂体から分泌される卵巣を刺激するホルモンのバランスまで崩れてしまい、結果として排卵障害を引き起こすことがあるのです。例えば、甲状腺ホルモンが不足する「甲状腺機能低下症(橋本病など)」では、排卵が起こりにくくなったり、月経の周期が長くなったり、経血の量が増える過多月経になったりすることがあります。また、妊娠したとしても、初期の流産のリスクが高まることも知られています。逆に、甲状腺ホルモンが過剰になる「甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)」でも、無月経や月経不順をきたすことがあります。これらの甲状腺疾患は、治療によって甲状腺ホルモンの値を正常にコントロールすることで、乱れていた月経周期が整い、妊娠に至るケースも少なくありません。つまり、不妊の原因が、実は治療可能な甲状腺の病気にあった、ということも決して珍しくはないのです。したがって、もしあなたが長引く月経不順や原因不明の不妊に悩んでいるのであれば、婦人科での治療と並行して、「内分泌内科」を受診し、甲状腺機能のチェックを受けることを強くお勧めします。婦人科と内分泌内科が連携して治療を進めることで、これまで見過ごされてきた問題の根本的な解決に繋がる可能性があるのです。