鼠径ヘルニアは、多くの場合はゆっくりと進行し、すぐに命に関わる病気ではありません。しかし、それはあくまで「嵌頓(かんとん)」という危険な状態に陥っていない場合に限られます。嵌頓とは、ヘルニアの穴に飛び出した腸が締め付けられ、お腹の中に戻らなくなってしまう状態のことです。この状態を放置すると、腸への血流が途絶えて組織が壊死し、腸閉塞や腹膜炎といった命に関わる重篤な合併症を引き起こす可能性があります。そのため、嵌頓のサインを見逃さず、緊急で医療機関を受診することが極めて重要です。では、どのような症状があれば嵌頓を疑うべきなのでしょうか。まず、最も重要なサインは「いつもは引っ込んでいた膨らみが、押しても戻らなくなった」という状態です。そして、その膨らみが「硬く張っている」「激しい痛みを伴う」といった特徴が加われば、嵌頓の可能性は非常に高くなります。さらに、症状が進行すると、締め付けられた腸が詰まることで腸閉塞を起こし、「吐き気や嘔吐」「お腹全体の張り」「便やおならが出ない」といった症状が現れます。発熱を伴うこともあります。これらの症状が一つでも見られた場合は、もはや様子を見ている時間はありません。夜間や休日であっても、ためらわずに救急車を呼ぶか、救急外来のある病院に急いで連絡し、受診する必要があります。診療科は、昼間であれば外科ですが、夜間・休日の救急外来では、まずは当直の救急医が診察し、必要に応じて外科医が緊急手術を行うという流れになります。鼠径ヘルニアと診断されている方はもちろん、まだ診断されていない方でも、足の付け根の膨らみと上記のような激しい症状が同時に現れた場合は、嵌頓を強く疑ってください。「そのうち治るだろう」「朝まで待とう」といった自己判断が、取り返しのつかない事態を招くことがあります。いつもと違う、おかしいと感じたら、即座に行動することが自分の命を守ることに繋がるのです。
その膨らみ放置は危険!緊急で受診すべき症状