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咳の後のあばらの痛み、最初に受診すべきは何科か
長引く風邪や気管支炎の後、ようやく咳が落ち着いてきたと思ったら、今度は胸や脇腹に鋭い痛みが走る。深呼吸をしたり、寝返りをうったりするたびに「ズキッ」と痛む。この「咳のしすぎによるあばらの痛み」は、経験した人にしかわからない非常につらい症状です。あまりの痛みに「骨にヒビでも入ったのではないか」と不安になり、病院へ行こうにも、一体何科を受診すれば良いのか迷ってしまう方が非常に多いでしょう。この問題に対する最も的確な答えは、まず「咳の原因」を治療することが最優先であるため、「呼吸器内科」あるいは「一般内科」を受診することです。なぜなら、あばらの痛みの根本的な原因は、あくまで「激しい咳」そのものにあるからです。咳が続く限り、あばらの筋肉や骨への負担はかかり続け、痛みは改善しません。呼吸器内科や内科では、長引く咳の原因が何であるか(気管支炎、肺炎、咳喘息など)を聴診やレントゲン検査などで正確に診断し、咳を鎮めるための適切な治療を行ってくれます。そして、その診察の過程で、あばらの痛みについても相談すれば、医師はそれが咳に伴う症状である可能性を十分に考慮してくれます。多くの場合、この痛みは肋骨の周りにある筋肉の炎症(肋間筋の筋肉痛)や、肋骨と胸骨をつなぐ軟骨の炎症(肋軟骨炎)です。しかし、あまりに痛みが強い場合や、特定の場所を押すと激痛が走る場合には、「肋骨の疲労骨折」の可能性も否定できません。もし、内科医が骨折を強く疑った場合には、そこから「整形外科」を紹介してくれるという流れになります。最初から整形外科に行ってしまうと、骨の異常は調べられても、肝心の咳の治療はできません。まずは咳を止めること。そのために、呼吸器系の専門家である呼吸器内科、あるいはかかりつけの内科を受診する。これが、咳の後のあばらの痛みに悩んだ時の、最も合理的で賢明な行動と言えるのです。
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甲状腺の病気は専門医を見つけることが大切
原因不明の体調不良に悩み、内科を受診して血液検査を受けた結果、「甲状腺ホルモンの値に少し異常があるようです」と告げられた。ここから、本格的な甲状腺疾患との向き合いが始まります。この時、治療を成功させ、長期にわたって良好な体調を維持するために最も重要なこと、それは「甲状腺を専門とする医師」を見つけ、継続的に診てもらうことです。もちろん、一般的な内科でも甲状腺疾患の初期対応や、安定期の薬の処方は可能です。しかし、甲状腺の病気は、非常に繊細なホルモンバランスの調整が求められ、また、生涯にわたって付き合っていく必要のある慢性疾患であることが少なくありません。だからこそ、専門医による深い知識と豊富な経験が不可欠なのです。甲状腺専門医、すなわち内分泌代謝科医は、血液検査の数値をただ正常範囲内に入れることだけを目的とはしません。その数値の背景にある患者さん一人ひとりの体調の変化や、生活の質(QOL)を重視し、薬の量を微調整していきます。同じFT4の数値であっても、ある人にとっては快適な状態が、別の人にとってはまだ不調を感じる状態である、ということを熟知しています。また、甲状腺疾患は、妊娠や出産、加齢といった女性のライフステージの変化によって、ホルモンの状態が大きく変動することがあります。専門医は、こうした変化を予測し、先回りして治療方針を調整することができます。妊娠を希望する女性に対しては、胎児への影響が少ない薬を選択し、適切な甲状腺機能を維持するためのきめ細やかな管理を行います。さらに、定期的な超音波検査による甲状腺の形状変化の観察や、稀に発生する甲状腺腫瘍の早期発見など、長期的な視点でのフォローアップも専門医の重要な役割です。もし、かかりつけの内科で甲状腺疾患と診断された場合は、一度、専門医のいる病院を紹介してもらい、セカンドオピニオンを求めることも賢明な選択です。信頼できる専門医というパートナーを見つけることこそが、甲状腺の病気と上手に付き合っていくための、最も確かな基盤となるのです。
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子供の鼠径ヘルニア、大人と違う診療科
お子さんの足の付け根が泣いたり、お腹に力を入れたりした時にポコッと膨らむ。オムツ替えの時に偶然気づき、心配になってスマートフォンで検索する親御さんは非常に多いでしょう。その症状は、小児に非常に多い病気の一つである「小児鼠径ヘルニア」の可能性が高いです。そして、ここで絶対に間違えてはいけないのが、受診すべき診療科です。大人の場合は「外科」や「消化器外科」が専門ですが、子供の場合は「小児外科」が専門の診療科となります。なぜ、子供と大人で診療科が異なるのでしょうか。それは、病気の原因が根本的に違うからです。大人の鼠径ヘルニアは、加齢などによって腹壁の筋膜が弱くなって発症する後天的なものがほとんどです。一方、小児鼠径ヘルニアは、胎児の時にお腹の中にあった「腹膜鞘状突起」というトンネル状の管が出生後も閉じずに残ってしまい、そこから腸などが飛び出してくるという先天的な原因で起こります。このように、成り立ちが全く異なるため、手術の方法や麻酔の管理、術後のケアなど、全てのプロセスにおいて子供の体に特化した専門的な知識と技術が求められます。小児外科医は、小さな子供の体の構造や成長を熟知しており、手術の傷がなるべく目立たないように、そして成長に影響が出ないように、細心の注意を払って治療を行います。一般的な外科では、小児の麻酔管理や手術に対応していない場合がほとんどです。もし、かかりつけの小児科で鼠径ヘルニアを指摘された場合は、必ず小児外科のある病院への紹介状を書いてもらいましょう。また、自分で病院を探す際も、必ず「小児外科」の看板を掲げている医療機関を選んでください。大きなこども病院や、大学病院などに設置されていることが多いです。大切な我が子の治療です。遠回りせず、最初から子供の体の専門家である小児外科医に診てもらうことが、最も安全で確実な選択なのです。
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しつこい咳はいつまで?大人のRSウイルス症状別回復期間
大人がRSウイルスに感染した時、最も悩まされるのが、様々な症状が一体いつまで続くのかという見通しの立たない不安です。特に、日常生活や仕事に大きく影響する症状の持続期間は、誰もが知りたい情報でしょう。ここでは、主な症状別に回復までのおおよその期間を解説します。まず「発熱」ですが、これは比較的早い段階で落ち着くことが多い症状です。三十八度前後の熱が出ることが多いですが、通常は発症から二日から四日程度で解熱します。ただし、高熱が五日以上続く場合や、一度下がった熱が再び上がるような場合は、肺炎などの合併症も疑われるため、医療機関への再受診が必要です。次に「鼻水や鼻づまり」です。初期症状として現れ、水っぽい鼻水から始まり、徐々に粘り気のある黄色や緑色の鼻水に変化していきます。この症状は、通常一週間から十日ほどで改善しますが、副鼻腔炎を合併すると長引くことがあります。そして、多くの人が最も苦しむのが「咳と痰」です。RSウイルスは下気道、つまり気管支の深い部分で炎症を起こしやすいため、咳の症状が強く、そして長く続くのが最大の特徴です。最初は乾いた咳から始まり、次第にゼロゼロ、ゴホゴホといった湿った咳に変わっていきます。この咳のピークは発症から四日から七日目あたりに訪れ、日常生活に支障をきたすほど激しくなることもあります。そして、熱などの他の症状が治まった後も、この咳だけがしつこく残るのです。気道が過敏な状態が続くため、ちょっとした刺激で咳き込む状態が続き、完全に咳が気にならなくなるまでには、平均して三週間程度、人によっては一ヶ月以上を要することも稀ではありません。最後に「倦怠感」です。全身のだるさは熱と共にピークを迎え、解熱と共に和らいでいきますが、すっきりとした体調に戻るまでには二週間ほどかかる人もいます。このように、症状ごとに回復のペースは異なることを理解しておくことが大切です。
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肋骨疲労骨折とは?咳の衝撃が引き起こすケガ
咳をするたびに胸に響く鋭い痛み。それは単なる筋肉痛ではなく、「肋骨疲労骨折」という、れっきとした骨折かもしれません。疲労骨折と聞くと、スポーツ選手が過度なトレーニングで起こすケガというイメージが強いですが、実は激しい咳の繰り返しによっても、あばらの骨である肋骨に発生することがあるのです。私たちの肋骨は、呼吸に合わせて柔軟に動く、比較的細くて薄い骨です。一方、咳は非常に爆発的なエネルギーを伴う身体反応です。「ゴホン!」という一回の咳で、肋骨やその周りの筋肉には、瞬間的に自分の体重の何倍もの負荷がかかると言われています。風邪や気管支炎などで、この強力な衝撃が何日も、何百回、何千回と繰り返し肋骨に加わり続けると、金属疲労のように骨の同じ場所に微細なダメージが蓄積していきます。そして、ついに骨の耐久力の限界を超えた時、ポキッと折れるのではなく、微細なヒビが入ってしまうのです。これが肋骨疲労骨折のメカニズムです。特に、骨がもろくなっている高齢者や、骨密度の低い女性は、比較的軽い咳でも発症しやすい傾向があります。骨折しやすい部位は、脇腹に近い、比較的動きの大きい第七から第十肋骨あたりが多いとされています。症状の特徴は、咳や深呼吸、体をひねる、寝返りをうつといった、胸郭が動く動作の際に、骨折した部分に限定して「ズキッ」「ピキッ」という鋭い痛みが走ることです。また、痛い場所を指で押すと、ピンポイントで激痛を感じる「圧痛(あっつう)」も重要なサインです。もし、長引く咳の後にこのような症状が現れたら、単なる筋肉痛と自己判断せずに、医療機関を受診することを検討してください。適切な診断を受け、痛みを管理しながら安静に過ごすことが、つらい痛みからの早期回復に繋がります。
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薬局で相談?病院に行くべき喉の痛みの見極め方
喉が少しイガイガする、風邪のひき始めかな、という程度の軽い喉の痛みであれば、まずは薬局やドラッグストアで薬剤師に相談し、市販薬で様子を見るという方も多いでしょう。確かに、初期の段階であれば、のど飴やトローチ、うがい薬、消炎鎮痛成分の入った風邪薬などで症状が緩和することもあります。しかし、全ての喉の痛みが市販薬で対応できるわけではありません。中には、一刻も早く医療機関を受診すべきケースも存在します。では、その見極めのポイントはどこにあるのでしょうか。まず、市販薬を二日から三日使用しても、症状が全く改善しない、あるいはむしろ悪化している場合は、病院を受診するべきサインです。市販薬で対応できるのは、あくまでごく初期の軽い炎症までです。症状が長引いている時点で、より強い炎症が起きているか、あるいはウイルスではなく細菌感染の可能性が考えられます。細菌感染の場合、抗生物質の投与が必要になりますが、これは医師の処方箋がなければ入手できません。次に、痛みの「強さ」と「種類」です。「唾を飲み込むのもつらいほどの激痛」「片側だけが異常に痛む」「鋭い針で刺されるような痛み」といった、尋常ではないレベルの痛みを感じた場合は、市販薬で様子を見る段階ではありません。扁桃周囲膿瘍などの重篤な状態に進行している可能性も考えられるため、速やかに耳鼻咽喉科を受診してください。また、喉の痛みに加えて、「高熱(三十八度以上)が続く」「息苦しさがある」「声が全く出ない」「口が開きにくい」といった他の症状を伴う場合も、危険な病気のサインである可能性が高いため、自己判断は禁物です。薬局の薬剤師は薬の専門家ですが、診断を行うことはできません。あくまで症状に応じた薬の提案はできますが、その症状の裏に何が隠れているかまでは判断できないのです。市販薬は、あくまで健康な人が軽い不調をセルフケアするためのもの。自分の症状を客観的に見つめ、少しでも「いつもと違う」「これはおかしい」と感じたら、迷わず専門家である医師の診断を仰ぐことが、結果的に早期回復と重症化予防に繋がるのです。
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子供は軽症、親は重症。私がRSウイルスから回復するまでの一ヶ月
二歳になる娘が保育園からRSウイルスをもらってきたのは、去年の秋のことでした。最初は軽い鼻風邪のようでしたが、夜になるとゼロゼロと苦しそうな咳をし始め、小児科でRSウイルスの診断を受けました。幸い娘は高熱も出さず、食欲も旺盛で、五日ほどでケロッと回復。子供って強いな、と安堵したのも束の間、本当の悪夢はそこから始まりました。娘の看病で寝不足が続いていた私に、ウイルスは容赦なく牙を剥きました。まず襲ってきたのは、インフルエンザと勘違いするほどの悪寒と、三十九度を超える高熱。解熱剤を飲んでも全く効かず、体中の関節が悲鳴をあげました。その二日後、今度は激しい咳が始まりました。それは、ただの咳ではありません。胸の奥底から込み上げてくるような、一度始まると息もできなくなるほどの咳の発作でした。夜は咳き込んで眠れず、昼間は咳のしすぎで腹筋が筋肉痛になり、体力を根こそぎ奪われていきました。食事の味は全くせず、水を飲むことさえ苦痛でした。娘は元気いっぱいに走り回っている横で、私はソファから動くこともできず、ただひたすら耐えるだけ。子供は数日で治る軽い病気という世間のイメージと、自分の惨状とのギャップに、精神的にも追い詰められました。結局、高熱と全身の倦怠感が落ち着くまでに一週間。しかし、問題はその後もしつこく残った咳でした。熱は下がったのに、咳だけは一向に治まる気配がありません。会社に復帰しても、会議中に咳が止まらなくなり、周りに気を使わせてしまう始末。結局、呼吸器内科で「感染後咳嗽」と診断され、吸入薬を使い始めることになりました。その薬のおかげで少しずつ咳は落ち着きましたが、完全に気にならなくなるまでには、発症から実に一ヶ月以上という長い時間が必要でした。この体験を通じて、大人のRSウイルスが決して侮れない病気であることを、骨身に沁みて実感したのです。
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整形外科か内科か、あばらが痛い時の正しい選び方
咳をしすぎてあばらが痛い。この症状に直面した時、多くの人が「骨が痛いのだから整形外科?」いや、「そもそも咳が原因だから内科?」という二択で頭を悩ませます。どちらも間違いではありませんが、症状のフェーズや特徴によって、より適切な選択をすることができます。ここでは、その賢い選び分け方について解説します。まず、大原則として、まだ「激しい咳が続いている」段階であれば、迷わず「呼吸器内科」または「一般内科」を受診してください。この時点での最優先事項は、あばらの痛みの原因となっている咳を鎮めることです。内科では、咳の原因を特定し、鎮咳薬や気管支拡張薬、場合によっては抗生物質などを処方して、根本原因の治療にあたってくれます。この診察の際に、あばらの痛みについても伝えれば、多くは咳による筋肉や軟骨の炎症と判断され、痛み止めの湿布や内服薬が一緒に処方されます。一方、「整形外科」の受診を検討すべきなのは、ある程度咳は治まってきたのに、あばらの痛みが一向に改善しない、あるいはむしろ悪化している場合です。特に、「深呼吸や寝返り、体をひねる動作で、特定の場所に激痛が走る」「痛い部分を指で押すと、ピンポイントで飛び上がるほど痛む(圧痛)」といった症状があれば、「肋骨疲労骨折」の可能性が高まります。整形外科では、レントゲンや超音波(エコー)検査を用いて、骨に異常がないかを専門的に調べることができます。ただし、疲労骨折は非常に細かなヒビであるため、初期のレントゲンでは写らないことも多く、その場合は症状から臨床的に診断されることもあります。結論として、選び方のポイントは「咳の有無と痛みの質」です。咳が主役のうちは内科へ行き、咳が脇役になり、局所的な骨の痛みが主役になってきたら整形外科を考える、という流れが最もスムーズです。もし迷ったら、まずは内科を受診し、医師の判断を仰ぐのが一番確実な方法と言えるでしょう。
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夏は自分を甘やかす、それが一番の処方箋
毎年夏が来るたびに、私たちは無意識のうちに自分に高いハードルを課してはいないでしょうか。暑さに負けずに仕事も家事も完璧にこなさなければ。夏休みだからとアクティブに活動しなければ。そんな「かくあるべし」というプレッシャーが、ただでさえ過酷な夏の環境で疲弊している自律神経に、さらなる追い打ちをかけています。もしあなたが、毎年繰り返す夏のつらい不調から本気で抜け出したいと願うなら、今年こそ「夏は自分を思いっきり甘やかす季節」と決めてみませんか。それが、何よりも効果的な処方箋となるかもしれません。まず、完璧主義を手放しましょう。夏は、人間の体にとって非常事態です。普段通りのパフォーマンスができなくて当たり前なのです。仕事の効率が落ちても、家事が少し滞っても、「まあ、夏だから仕方ないか」と自分を許してあげましょう。他人と比べるのもやめましょう。SNSで見る友人たちの華やかな夏の思い出に焦りを感じる必要はありません。あなたには、あなたのペースと、あなたの体調に合った夏の過ごし方があるはずです。次に、スケジュールに「何もしない時間」を意図的に組み込むことです。私たちはつい、休日を予定で埋め尽くしてしまいがちですが、自律神経を休ませるためには、心からリラックスできる時間が必要です。冷房の効いた部屋で好きな音楽を聴きながらぼーっとする、お気に入りのカフェでただ窓の外を眺める。そんな生産性のない時間が、実は心と体の回復にとって最も生産的なのです。そして、自分の「快・不快」の感覚にもっと正直になりましょう。少しでも「しんどいな」と感じたら、それは体からの重要なサインです。無理して人に会ったり、義務感で出かけたりするのをやめて、自分の心の声に耳を傾け、休むという選択を優先してください。夏は、自分を律し、奮い立たせる季節ではありません。むしろ、一年で最も自分を労り、優しく扱い、大切にするべき季節なのです。この夏、自分を甘やかす勇気を持つことが、来年以降の夏を健やかに過ごすための、最も賢明な投資となるでしょう。
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風邪やインフルエンザとどう違う?大人のRSウイルスの治癒期間
「ただの風邪だと思っていたら、一週間経っても全く良くならない」「インフルエンザより症状が長引いてつらい」。大人がRSウイルスに感染した時、多くの人がこのような感想を抱きます。それは、RSウイルスによる症状の経過が、一般的な風邪やインフルエンザとは異なる特徴を持っているためです。ここでは、これらの感染症と治癒までの期間を比較してみましょう。まず、一般的な「普通感冒(風邪)」です。ライノウイルスなど、様々なウイルスによって引き起こされますが、その症状は主に鼻や喉といった上気道に限られることが多く、全身症状は比較的軽いのが特徴です。通常、十分な休養をとれば三日から五日程度で症状はピークを越え、一週間もすればほとんど治癒します。次に「インフルエンザ」です。高熱や強い関節痛、筋肉痛といった急激な全身症状が特徴ですが、抗インフルエンザ薬という特効薬があります。発症後四十八時間以内に服用すれば、ウイルスの増殖を抑え、発熱期間を一日から二日短縮する効果が期待できます。合併症がなければ、通常は五日から七日程度で解熱し、回復に向かいます。では、「RSウイルス」はどうでしょうか。RSウイルスの最大の特徴は、風邪とは異なり、気管支や肺といった下気道に炎症を起こしやすい点です。これにより、咳や痰、息苦しさといった症状が非常に強く、そして長引く傾向があります。また、インフルエンザのような特効薬が存在しないため、治療は自身の免疫力に頼るしかありません。そのため、熱が下がって全身症状が落ち着くまでに一週間から十日と、風邪やインフルエンザよりも長い時間を要することが多いのです。さらに、最も大きな違いは回復後の経過です。風邪やインフルエンザは、症状が治まればそれで終わりですが、RSウイルスは前述の通り、気道の炎症が治まらずに「感染後咳嗽」として咳だけが数週間から一ヶ月以上も続くことがあります。この「しつこさ」と「後遺症の残りやすさ」こそが、RSウイルスを他の呼吸器感染症とは一線を画す、厄介な存在たらしめている理由なのです。