長引く咳と、それに伴うあばらの痛み。その原因の多くは、気管支炎後の肋間筋痛や肋骨疲労骨折です。しかし、ごく稀に、これらの症状の背後に、より深刻な病気が隠れている可能性も考慮に入れておく必要があります。特に、痛みがなかなか改善しない場合や、他の症状を伴う場合は注意が必要です。まず考えられるのが、肺そのものの病気です。例えば、「胸膜炎」は、肺を覆う胸膜という薄い膜に炎症が起こる病気で、咳や深呼吸をすると胸に鋭い痛みが生じます。細菌やウイルス感染、あるいは自己免疫疾患などが原因となります。また、「気胸」は、肺に穴が空いて空気が漏れ、肺がしぼんでしまう状態です。突然の胸の痛みと息苦しさが特徴で、咳をきっかけに発症することもあります。これらの病気は、胸部レントゲン検査で診断が可能です。次に、忘れてはならないのが「悪性腫瘍(がん)」の可能性です。肺がんが進行して胸膜や肋骨にまで広がると(浸潤)、持続的な胸の痛みや、血の混じった痰を伴う咳が出ることがあります。また、他の臓器のがんが肋骨に転移する「転移性骨腫瘍」も、頑固な痛みの原因となり得ます。これは、特にがんの治療歴がある方が注意すべき点です。さらに、ウイルス感染によって神経に沿って痛みと発疹が出る「帯状疱疹」も、胸部に発症すると肋間神経痛として鋭い痛みを引き起こし、咳で悪化することがあります。発疹が出る前に痛みだけが先行することもあるため、診断が難しい場合があります。もちろん、これらは非常に稀なケースであり、過度に心配する必要はありません。しかし、咳によるあばらの痛みが一ヶ月以上たっても全く良くならない、痛みがどんどん強くなる、息苦しさや体重減少、発熱といった全身症状を伴う、といった場合は、単なる咳の後遺症と自己判断せず、必ず呼吸器内科などの専門医を受診し、精密検査を受けるようにしてください。
咳とあばらの痛み、その裏に潜む意外な病気