今思えば、私の体に異変が起き始めたのは三十代後半のことでした。最初は、ただの疲れだと思っていました。朝起きるのが異様につらく、一日中、重い鉛の鎧を着ているような倦怠感が続く。仕事でのちょっとしたミスが増え、集中力も続かない。周囲からは「疲れてる顔してるよ」と心配されましたが、忙しいのだから仕方がないと自分に言い聞かせていました。次に気づいたのは、体重の変化です。食事の量は変わらないのに、この一年で五キロも増えていたのです。肌は乾燥し、あんなに豊かだった髪の毛も、お風呂の排水溝を見るたびに溜息が出るほど抜けるようになりました。何よりつらかったのは、気分の落ち込みです。理由もなく涙が出たり、何事にも興味が持てなくなったり。これはもしかして、心の病気なのではないか。そう思い、私は最初に心療内科の扉を叩きました。しかし、カウンセリングを受け、抗うつ薬を飲んでも、体の根本的なだるさが消えることはありませんでした。次に訪れたのは、近所の内科です。症状を話すと、医師は「更年期には少し早いけどね」と言いながら、一通りの血液検査をしてくれました。数日後、告げられた結果は「甲状腺ホルモンの値が少し低いですね。橋本病の可能性があります」。初めて聞く病名に、私は戸惑いました。医師は「経過を見ましょう」と言うだけ。処方された薬を飲み始めましたが、体調は一進一退でした。本当にこのままで良いのだろうか。不安に駆られた私は、インターネットで必死に情報を探し、甲状腺を専門とする「内分泌内科」の存在を知りました。勇気を出して、大学病院の専門外来を予約。そこで出会った専門医は、私の話をじっくりと聞き、これまでの検査結果を見た上で、さらに詳細な血液検査と超音波検査を行いました。そして、「典型的な橋本病ですね。適切な量のホルモン補充をすれば、体調は必ず良くなりますよ」と、力強く言ってくれたのです。その一言に、私はどれだけ救われたことか。専門医という確かな道標を見つけたことで、長くて暗いトンネルの先にかすかな光が見えた瞬間でした。
私が甲状腺の病気に気づき専門医と出会うまで