女性に多い甲状腺の病気として、必ず名前が挙がるのが「バセドウ病」と「橋本病」です。この二つの病気は、どちらも自己免疫の異常によって引き起こされるという点は共通していますが、その症状は正反対、まさに「火と水」のような違いがあります。この違いを理解することは、ご自身の体調変化の原因を探る上で非常に役立ちます。まず、「バセドウ病」は、甲状腺を過剰に刺激する抗体が体内で作られてしまうことで、甲状腺ホルモンが必要以上に分泌される「甲状腺機能亢進症」を引き起こす代表的な病気です。体中の新陳代謝が異常に活発になり、体は常に全力疾走しているような状態になります。そのため、症状としては「たくさん食べるのに痩せる」「常に心臓がドキドキして脈が速い」「異常に汗をかく、暑がりになる」「手の指が細かく震える」「疲れやすいのに、神経が高ぶって眠れない」「イライラしやすく、落ち着きがなくなる」といったものが現れます。また、バセドウ病に特徴的な症状として、眼球が突出する「眼球突出」が見られることもあります。一方、「橋本病」は、甲状腺の組織を異物とみなして破壊してしまう抗体が作られることで、甲状腺ホルモンの分泌が徐々に低下していく「甲状腺機能低下症」の最も多い原因です。体の代謝が全体的に低下し、活動のエネルギーが不足した状態になります。そのため、症状はバセドウ病とは真逆で、「食欲がないのに体重が増え、むくむ」「脈がゆっくりになり、血圧も低めになる」「寒がりで、夏でも手足が冷たい」「皮膚が乾燥してカサカサになる」「眠くて仕方がない、一日中だるい」「物忘れが多くなり、何事にもやる気が出ない」といったものが現れます。このように、同じ甲状腺の病気でありながら、その症状は全く異なります。もし、ご自身の体調不良がどちらかのパターンに当てはまるようであれば、それは治療によって改善できるサインかもしれません。内分泌内科で適切な診断を受け、正しい治療を始めることが大切です。