「ただの風邪だと思っていたら、一週間経っても全く良くならない」「インフルエンザより症状が長引いてつらい」。大人がRSウイルスに感染した時、多くの人がこのような感想を抱きます。それは、RSウイルスによる症状の経過が、一般的な風邪やインフルエンザとは異なる特徴を持っているためです。ここでは、これらの感染症と治癒までの期間を比較してみましょう。まず、一般的な「普通感冒(風邪)」です。ライノウイルスなど、様々なウイルスによって引き起こされますが、その症状は主に鼻や喉といった上気道に限られることが多く、全身症状は比較的軽いのが特徴です。通常、十分な休養をとれば三日から五日程度で症状はピークを越え、一週間もすればほとんど治癒します。次に「インフルエンザ」です。高熱や強い関節痛、筋肉痛といった急激な全身症状が特徴ですが、抗インフルエンザ薬という特効薬があります。発症後四十八時間以内に服用すれば、ウイルスの増殖を抑え、発熱期間を一日から二日短縮する効果が期待できます。合併症がなければ、通常は五日から七日程度で解熱し、回復に向かいます。では、「RSウイルス」はどうでしょうか。RSウイルスの最大の特徴は、風邪とは異なり、気管支や肺といった下気道に炎症を起こしやすい点です。これにより、咳や痰、息苦しさといった症状が非常に強く、そして長引く傾向があります。また、インフルエンザのような特効薬が存在しないため、治療は自身の免疫力に頼るしかありません。そのため、熱が下がって全身症状が落ち着くまでに一週間から十日と、風邪やインフルエンザよりも長い時間を要することが多いのです。さらに、最も大きな違いは回復後の経過です。風邪やインフルエンザは、症状が治まればそれで終わりですが、RSウイルスは前述の通り、気道の炎症が治まらずに「感染後咳嗽」として咳だけが数週間から一ヶ月以上も続くことがあります。この「しつこさ」と「後遺症の残りやすさ」こそが、RSウイルスを他の呼吸器感染症とは一線を画す、厄介な存在たらしめている理由なのです。